いきべん「死ぬ気でモバイル広告を考える会」

昨夜はモバイル業界の有名人、シンクウエア・藤永さん主催の「平日夜の粋な勉強会」の拡大版、「死ぬ気でモバイル広告を考える会」にパネリストとして出席。
(↑クリックするとGREEのコミュに入るのでご注意)
21時から23時半まで、モバイル広告について20名近いパネリストの、いろんな意見を伺うことができたし、自分もかなり勝手な放言をしてきた
(あえて、「放言」を演出してみたかったのだが、あまりうまくいったとは思えない。ほかのパネリストや参加者のみなさんの不興を買ったかもしれないがご容赦を…)。

上記GREEサイトにはディスカッションの抄録が掲載されているので、興味のある方はぜひ見てみてほしい。


ディスカッションの途中まであまり意識していなかったのだが、モバイルマーケティングを「広告」という切り口で見ると、ふだんの自分の視点とはかなり違う遠近感が現れることがわかった。
現在のモバイル広告業界のゴールは、マスメディアやPCメディア向けの予算をいかにモバイルに持ってくるか、というところにある。
広告予算には限りがあるし、予算のひもを握っているのは企業の担当者であり、広告代理店もメディアもその担当が求める結果を出そうと必死なのだ。
良くも悪くも「これまで旧メディアに広告予算を使ってきた企業」にアプローチして、モバイルが役に立つことをアピールしなくてはならない。
その営業トークの中では、モバイルメディアの特性だとかモバイル利用ユーザーの行動特徴などの話題は傍流なのである。


一方でモバイル広告業界は、いまひとつの曲がり角にさしかかっているという。
業界内の人々をして「焼き畑」と自嘲気味に語らせる、モバイルメディアの荒廃である。
広告主の求める結果追求に突き進み、また、ユーザーよりも広告収入優先のサイト運営をするメディアまで現れた。
結果として広告への反応が極端に鈍くなってしまい、広告メディアとして機能するサイトが次々と「消費」──焼かれてしまったのだ。
いまや「良質な利用者反応」を提供できるメディアはキャリアポータルやモバゲー、mixiGREEなど数百万ユーザーを集める一部のメディアに限定されるという。
そして代理店の担当者は「広告を出す先がない」と嘆いている。


残念ながら、広告営業現場の視界が変わらないのであれば、モバイル広告はますます空洞化するのではないかと感じた。
必死にモバイルをクライアントに売り込もうという広告業界の努力を揶揄するつもりはないし、モバイルメディアの可能性の限界が見えたというわけでもない。
ただ、「うまいモバイルの使い方」が、広告業界の常識と違いすぎるのだ。

■スピード感

  1. バイルサイトがユーザーのロイヤルティを獲得して有効な結果を出すには3〜6か月かかる
  2. 広告業界は週ごと、月ごとの結果を求める

■運営コスト

  1. セグメントされたユーザーを掴むためにはセグメントされたコンテンツ提供のためのコストが必要
  2. 広告業界は利益率を追求するために、運営コストを最小化可能な量産可能なコンテンツを求める

■結果

  1. ユーザーロイヤルティを高めたサイトは数か月後から非常に高いコンバージョンを叩き出す。結果、ROIは劇的に上がる(CPAは劇的に下がる)
  2. ロイヤルティないまま広告メディア化したサイトの広告は結果を提供できない。時にサイトを潰す

モバイルはユーザーが「自分だけの場所」を求めるメディアである。
そのツボをうまく突くと、他のメディアと比較にならないくらいロイヤルティ獲得が容易だ。
なぜプロフサイトが人気を博すのか? なぜモバイルのメールマガジンのCTRが高いのか? 


「規模は小さいが、精読率の高い」モバイルサイトを構築するのは難しくない。
たとえば平均的なCTRが20%〜30%のモバイルメルマガ(登録者の5〜3人にひとりが閲読)、
平均的なコンバージョンレートが15%のECページ(ページ来訪者の7人にひとりが購入)というサイトはモバイルの場合、ありえるのだ。
なぜそのようなことが可能なのかは稿を改めたいが、モバイルというメディア、あるいはデバイスの特性がそうさせていると言っていいだろう。
理屈の上では、そういう小さいけれども効果の高いメディアを束ねて「ロングテール」な広告モデルを創造することだってできるはずだ。
(実は、それをCGMの力で自動化しているのがモバイルSNSである。100万SNSはしばらく甘い蜜の味を楽しむことになりそうだ)


しかし現状ではモバイルを既存のメディア(とくにPC-WEB)と同じものとして捉え、同じように使ってしまっている。
モバイル独特の効果を広告に持ち込むことができないからクライアントの満足を引き出すことがでず、結局、代理店はクライアントの言いなりになってしまう。
そしてますます「うまいモバイルの使い方」から遠ざかり、モバイルメディアが見放されてしまう。


広告業界パラダイムが「広告が欲しいメディアは広告主のリクエストに従え」「短期的結果至上」というを志向しつづけるならば、新しいメディアビジネスも、新しいwin-win-winモデルも作れないだろう。
PC-webのように、広告メディアとして機能するのはひとにぎりのサイトだけ、ロングテール型モデルはリスティング広告会社におまかせ、という形になるのではないか。
逆に「うまいモバイルの使い方」を研究し、モバイルのレバレッジ効果にクライアントを巻き込むことができれば、自然と広告予算はモバイルに流れてくるはずなのだ。


逆に企業がモバイルが持つレバレッジ効果を正当に評価すれば、自社の顧客を自社サイトに直接誘導するだけで十分、という「広告不要」モデルも出てくるだろう(実際、モバイルのメールチラシが新聞チラシを不要にしたという例は流通業界で実例がある)。
そう考えると、モバイル広告業界のライバルは、マスメディアでもPCメディアでもなく、モバイルを活用するクライアント企業そのものになるかもしれない。
「自社のモバイルがあれば、広告費なんかいらない」
という判断を下される可能性もあるからだ。


モバイル広告業界は、まず自らが「うまいモバイルの使い方」を知り、モバイルのチカラを正当に評価しなくてはならないタイミングなのだと思う。
目の前の売上を作り、新規クライアントを開拓する作業と同じくらい、この新しい生態系を拡大させるという作業も大事なのだ。


…そんなことを考えさせてくれた「いきべん」藤永さんにあらためて感謝である。
そして、会場を提供してくれたウェブドゥジャパンさん、パネリストの皆さん、参加者のみなさんにLOVE!
いや、モバイルって、ほんとうにおもしろい。