「未成年 携帯フィルタリング」のまとめ

「携帯フィルタリング」問題にモバイル業界が揺れている。

有害モバイルサイトへのアクセスを制限するため、通信事業者レベルで接続先
を規制するしくみ=「フィルタリング」が、未成年の利用者に対して原則適用
されると決まったのが昨年12月。

その後、その効果を疑問視する声やサイト運営企業や利用者からのブーイング、
はたまた賛成の声など、企業、利用者、知識人、ブロガーらを巻き込んだ論議
となっている。

未成年層はこれまで日本のモバイル文化の中心的な担い手とされてきた。当然
この施策が企業のモバイルマーケティング戦略に及ぼす影響はとても大きい。
一方でフィルタリング規制の具体的な方法や内容については、まだ調整の余地
を残している部分もあるようだ。

そこで、今回のモバ戦ノートでは「携帯フィルタリング」を詳細レポートする。

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[携帯電話フィルタリングの経緯]
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そもそも「携帯フィルタリング」は04年に子供用ケータイが発売された頃に始
まっている。任意利用サービスであったこともあり、認知度も低かった。

モバイルの出会いサイトやSNSがキッカケとなった事件・犯罪が増加。一昨年
あたりから行政とキャリアとが中心になり、フィルタリングサービスの普及・
推進の取り組みがだんだんと高まってきた。

そして昨年末、未成年者への原則適用の方針が発表される。突然かつ論議なく
一方的に導入が決まったことに、モバイル業界全体が動揺した。

経緯を、日付を追っておさらいしておこう。


◆2006/11/20
総務省からNTTドコモKDDIソフトバンクモバイル、(社)電気通信事業者
会に対して未成年者が使用する携帯電話におけるフィルタリングサービスの普
及促進に向けた自主的取組を強化するよう要請。

「携帯電話事業者等によるフィルタリングの普及促進に向けて」
(総務省)

出会い系サイトに関連した事件被害者のうち、18歳未満の児童が83.1%に上る
ことを紹介し、フィルタリングの普及促進への取り組みを求める。
これに対し、各キャリアも報道発表などを実施。


◆2007/02/16
文部科学省警察庁総務省が合同で都道府県知事・都道府県教育委員会・都
道府県警察等に対して有害サイトアクセス制限の普及促進について啓発活動の
取り組みを依頼。

携帯電話における「フィルタリング(有害サイトアクセス制限)」の普及促進について
(文部科学省)

通信事業者だけでなく、PTAを巻き込んだ啓蒙活動へと展開。
文部科学省はケータイ利用を啓蒙するパンフレットを作成した。

[http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/19/01/07011203.htm:title=「ちょっと待って、ケータイ」リーフレット
全国120万人の小学6年生全員に配布]
(文部科学省)


◆2007/10
ドコモが新しいフィルタリングサービスを12月中旬にスタートすると発表。
「公式サイトであっても、SNSなど利用者参加型サイトについては制限対象と
する」という方向性がはじめて明らかにされたが、この発表時点では未成年者
への原則適用とは謳われていなかった。

ドコモ、アクセス制限機能を公式サイトに拡大。mixiやGREEなども対象に
(Broad Band Watch)


◆2007/12/10
総務省から携帯・PHS各キャリアへ「青少年へのフィルタリング導入促進」を
要請。親権者からの申請がない限り、原則的にフィルタリングサービスを適用
するという方針が明らかに。

[http://203.140.31.100/s-news/2007/071210_4.html:title=青少年が使用する携帯電話・PHSにおける
有害サイトアクセス制限サービスフィルタリングサービス)の導入促進
に関する携帯電話事業者等への要請]
(総務省

このリリースが出された時点では各キャリアの具体的な規制内容は明らかにさ
れなかったが、翌11日「モバげータウン」を運営するDeNAの株価がストップ安
になるなどの影響が出た。


◆2008/01/15
各キャリアの「携帯フィルタリング」の基本的な規制方針が明らかになる。

携帯・PHS4事業者、有害サイトフィルタリング強化の具体策を公表
(マイコミジャーナル)


◆2008/01/29
総務省「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」の会合
が開催され、ヤフー、楽天ミクシィが意見を述べた。

[http://news.goo.ne.jp/article/internet/business/iw2008013105-internet.html:title=「オン・オフだけのフィルタリングは無益」施策の再検討を求める声も
総務省の検討会でヤフー、楽天ミクシィが意見]
(INTERNET Watch)


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[各キャリアの携帯フィルタリングの実施概要]
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「携帯フィルタリング」の各社の取り組みは、実施時期の差があるものの、ほ
ぼ同じ内容だ。整理すると以下のようになる。
対象となる年齢が未成年者だったり18歳未満だったりと微妙である。

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◆1-1 新規契約 - 未成年者名義の場合

 携帯電話インターネットの新規契約時、契約者が未成年名義となる場合は親
 権者に対してフィルタリング利用の意志確認を行う。親権者が「利用しない」
 という明確な意思表示をしない限り、フィルタリングサービスが適用される。


◆1-2 新規契約 - 成人名義の場合

 契約者が成人であっても、「未成年者の利用確認」を実施し、利用者が18歳
 未満である場合には、契約者が「利用しない」という意思表示をしない限り、
 フィルタリングサービスが適用される。 


◆2-1 既存契約 - 18歳未満名義の場合

 すでに契約されている携帯電話で、18歳未満の名義での契約であり、かつ、
 フィルタリングサービスを利用していない場合、その親権者に対してフィル
 タリングサービス利用の意思を確認。「利用しない」という意思表示のない
 限り、フィルタリングサービスを適用する。
 
 
◆2-2 既存契約 - 成人名義の場合

 すでに契約されている携帯電話で、成人名義の契約であり、かつ、フィルタ
 リングサービスを利用していない場合、利用者の確認を行う。利用者が18歳
 未満の場合、「利用しない」という意思表示のない限りフィルタリングサー
 ビスを適用する。

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各社のフィルタリングサービスと実施時期とを一覧にすると以下の通り。
携帯各社では、フィルタリングサービスにバリエが設定され、選択できるよう
になっている
 ◎記号…とくに選択しない場合に適用されるサービス
 ×記号…一般サイトへのアクセスが制限されるサービス


NTT DoCoMo     
 指定可能:「キッズiモードフィルタ」◎×
      「iモードフィルタ」
      「時間制限」
 1-1 新規 - 未成年 2008/02/01〜 
 1-2 新規 - 成人  2008/03/03〜(予定) 
 2-1 既存 - 未成年 2008/02月以降案内、08月以降順次適用 
 2-2 既存 - 成人  実施時期の発表なし
  
KDDIau)      
 指定可能:「EZ安心アクセスサービス 接続先限定コース」◎×
      「EZ安心アクセスサービス 特定カテゴリ制限コース」(4月以降)
 1-1 新規 - 未成年 2008/02/01〜
 1-2 新規 - 成人  2008/03月以降 
 2-1 既存 - 未成年 2008/02月以降案内、06月以降順次適用 
 2-2 既存 - 成人  2008/02月以降案内
   
SOFTBANKモバイル  
 指定可能:「ウェブ利用制限」◎
      「Yahoo!きっず」
 1-1 新規 - 未成年 2008/01/中旬以降
 1-2 新規 - 成人  2008/06月〜
 2-1 既存 - 未成年 2008/02月以降案内、06月以降順次適用
 2-2 既存 - 成人  2008/02月以降案内
   
WILCOM      
 「有害サイトアクセス制限サービス
 1-1 新規 - 未成年 2008/02月以降
 1-2 新規 - 成人  2008/03月以降
 2-1 既存 - 未成年 2008/02月以降案内
 2-2 既存 - 成人  2008/02月以降案内


※詳細情報

NTTドコモ


KDDI (au)


ソフトバンクモバイル


ウィルコム


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[フィルタリングによって、規制されるサイト]
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モバイルサイトを運営する企業や、これから活用しようという企業にとって、
もっとも気になるのが「どんなサイトがフィルタリング規制の対象になるのか」
という点だろう。

フィルタリングには「ホワイトリスト方式」(=アクセス可能なサイトのURLを
リストアップし、その他を規制する)と、「ブラックリスト方式」(=アクセ
ス規制するサイトのURLをリストアップし、他をアクセス可能とする)がある。

今回、NTT DoCoMoKDDI(au)では、原則的に公式サイト(ホワイトリスト)に
限定したうえで、さらに公式サイト内の規制対象カテゴリのサイトを規制する
ブラックリスト)という、「原則ホワイトリスト(+ブラックリスト)方式」
がデフォルト設定として採用された。
要望があれば「ブラックリスト方式」に変更可能ではあるが、公式サイトが優先
される。これに対してSOFT BANKモバイルとWILCOMは「原則ブラックリスト方式」
を採用。一般サイトへのアクセスを必要以上に規制しない方針を取った。

4社とも、ブラックリストはネットスター株式会社というフィルタリング専門
会社が提供するものを利用し、以下の規制対象カテゴリに分類されるサイトへ
のアクセスは「フィルタリングを解除」しないと規制されることになる。

◆規制対象カテゴリ

・不法(違法と思われる行為、違法と思われる薬物、不適切な薬物利用)
・主張(軍事・テロ・過激派、武器・兵器、誹謗・中傷、自殺・家出、主張一般)
・アダルト(性行為、ヌード画像、性風俗アダルト検索・リンク集)
・セキュリティ(ハッキング、不正コード配布、公開プロキシ)
・ギャンブル(ギャンブル一般)
・出会い(出会い・恋人紹介、結婚紹介)
・グロテスク(グロテスク)
・オカルト(オカルト)
・コミュニケーション(ウェブチャット、掲示板、IT掲示板)
・ライフスタイル(同性愛)
・宗教(伝統的な宗教、宗教一般)
・政治活動・政党(政治活動・政党)
・成人嗜好(娯楽誌、喫煙、飲酒、アルコール製品、水着・下着・フェチ画像、
      文章による性的表現、コスプレ)

参考:ネットスター株式会社


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[携帯フィルタリングの、なにが問題なのか?]
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携帯フィルタリングは「青少年を有害サイトから守る」ことを目的にしている。
それのどこがいけないのか? なにが問題視されているのかと不思議に感じる
ひとも少なくないだろう。

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◆IT企業活動の視点から見ると…

「モバげータウン」のDeNAが大きな影響を受けたことは話題にもなっているが、
特定企業の株価の話にとどまらず、ユーザー参加型のモバイルサイトを一律に
規制対象とすることで、日本のモバイルWEBの進化に大きな影響が出るだろう。

「不健全」なモバイルサイトはごく一部だ。その一部を規制するために、健全
な取り組みに血道を開けているサイトまでもが「立ち入り禁止」になるのだ。
たまったものではない。

[http://markezine.jp/a/article/aid/2517.aspx:title=モバゲーを運営するDeNA時価総額は1500億円毀損、
携帯フィルタリング導入政策の大きすぎる波紋]
(MarkeZine)


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マーケティングの視点から見ると…

すでに飲料や食品など、未成年をターゲットとした商品のマーケティング
チャネルとして、モバイルWEBは欠かせない存在となっている。

モバイルキーワード検索が発達してトラフィックの流動化が進み、モバイル関
連のASPが充実したことで、ようやくモバイルWEBでもPC-WEBのようなローコス
マーケティングのできる環境が整ったところだ。

しかしフィルタリングによって青少年層の流動性が抑止され、ホワイトリスト
の基準が「公式サイトかどうか?」で決まるとなれば、やむなくモバイルWEB
の導入を見送る企業も出てくるだろう。
モバイルマーケティングの未来に暗雲だ。

ローコストなモバイルWEB環境作りがあたらしいマーケティング生態系の発展
に役立つと信じ、採算性を度外視して汗をかいてきた企業は梯子をはずされた
形になる。

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◆規制されるサイトの運営者/利用者は…

もっとも深刻な打撃を受けるのが利用者の中心層が18歳未満のSNS系サイトだ。

不特定多数がコミュニケーションする、大型のSNSを想像すると
「実際、悲しい事件が後を絶たないではないか。規制されて当然だ」
という意見が出てくる。

しかし最近は地域のコミュニティや運動クラブ、塾や学校がコミュニケーショ
ンの活性化を目的として独自モバイルSNSが導入され、効果を上げている事例が
多く聞かれる。顔見知りが利用するクローズドのSNSサイトだ。

ブラックリストの判定基準が「コミュニティ系サイトはNG」ならば、これらも
フィルタリング対象となる。

たとえ、お父さんやお母さん、先生・コーチが作ってくれたSNSであっても、
モバイルサイトを使ったコミュニケーションのしくみはそれだけで「有害サイ
ト」扱いになってしまうのだ。

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◆子供たちは…

現在の18歳未満の子供たちは、モバイルというソーシャルインフラの上に自我
を形成してきた最初の人類、と言っても言いすぎではない。

彼らにとってモバイルWEBは、単なるメディアやツールといった類ではなく、
体の一部だ。誇張やメタファーでなく、リアルな事実としてそうなのだ。

現状、携帯フィルタリングの導入についてよく理解していない子供たちが多い
ようだ。SNSやプロフサイト、ケータイ小説サイトにアクセスできないという
事態がリアルになったとき、彼らはどう反応するだろう?

当事者である子供たちのためと言いながら、ある日突然、彼らの体の一部を使
えなくなってしまうに等しい。大きなパニックが予想される。

当事者への筋の通った説明=「フェア・プロセス」を経ず、これほどまで深く
生活に根付いたしくみをを、一斉規制するという例を他に思いつかない。
子供たちの目から見れば、「焚書」だ。

フィルタ解除を許してくれない親を逆恨みする子供が少なからず出るだろう。
また、それを起点にした家族の諍いが起きるだろう。

子供たちは体の一部をもがれたように苦しいのに、大人にはそれがわからない。
そもそも誰もわかっていないから、こんな規制がまかり通るのだ。

[http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0802/01/news120_2.html:title=「まぢわかんない」「悪い大人を取り締まって」
――携帯フィルタリングに未成年者の反応は]
(ITmedia News)

18歳未満携帯サイト制限「自動適用望ましい」8割 対策、業者任せの親多く
(C-NEWS)

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◆モバイルフィルタリングの功罪

モバイルサイトがいじめや買春、犯罪の温床になっているという事実は否定し
ようのない事実である。それらを撲滅することに異論を唱える人はいない。

しかし一方で、日本のモバイルWEBはビジネスの面でも文化の面でも、すでに
豊かな生態系を形成している。世界が注目する先進的な取り組みでもある。

ブログやケータイ小説のヒットに見られるように新しいクロスメディア・カル
チャーを孵化させる、まったく新しいプラットフォームでもある。

一部の「闇」の部分があることを理由に、当事者になんの相談も調整もなく、
健全な生態系や芽吹き始めたの可能性もいっしょくたにして規制の網をかける。

非難したいのは、問題解決のためのアプローチ方法と運用方法が誤っている、
ということだ。

未成年携帯フィルタリングという「愚策」
(岸博幸の「メディア業界」改造計画)


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[携帯フィルタリングに隠された、もうひとつの問題]
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◆「携帯フィルタリング」が正当化される理由

しかしこの突然の規制導入は、実はもっと過激な規制案が提出されることに対
する対抗策だ、という説がある。

[http://ascii.jp/elem/000/000/102/102337/index-4.html:title=コンテンツフィルタリング原則化で、
「モバゲー」が規制されるって知ってました?]
(ASCII.jp)

上の討論会の中で総務省の担当者がそれを匂わす発言をしている。

(以下引用)

>「総務省はこうした混乱を予想していなかったのか?」という中村氏の問い
> かけに対して、総務省の総合通信基盤局消費者行政課で課長補佐を務める
> 岡村信悟氏は、今回の判断がなければ、もっと極端な方針が打ち出された
> かもしれないと示唆した。

>「この1年、青少年を守るための議論で、『携帯電話を持つこと自体がけし
> からん』という極論まで出てきている。親も一部の国会議員も、子供がど
> ういう状況にあるのかなかなか想像できない。自分たちの価値判断では、
> なかなか今のスピードについていけない。様々な事件が起こっている中で、
> 正直、『フィルタリングにすがっている』ということだと思う。

(引用終わり)

たしかに調べてみると、こんなニュース時期が見つかる。

有害サイト削除、民主が独自法案・プロバイダーに義務化
(NIKKEI NET)

今回の携帯フィルタリングは「行政からの要請」によるキャリアの自己規制で
ある。だが民主党は「法律で規制をかけよ」「有害サイトは通信事業者に削除
を義務付けよ」という"とんでも"法案を用意している。

総務省としては、先に携帯フィルタリング実施の事実を作ることで

「キャリアは自主的にフィルタリング規制を実施しているんですよ。
 民主党さん、そんな法律の必要はないんじゃないですか?」

と言いたいのかもしれない。
この制度の導入には、いかにも『無理を通しましたた』という感じがあるが、

「行政の裁量による自主規制と、有害サイトの削除義務付けという
 治安維持法を思わせる法律の施行、どちらがマシだと思いますか?」

という、総務省のサイレント・メッセージとも取れる。


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[携帯フィルタリングに反対すべき理由]
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◆フィルタリングは有効か?

だからといって、フィルタリングの導入に賛成するつもりはない。
長い目で見た時、フィルタリングが効果を上げるとは到底思えないからだ。

「子供たちを危険な場所から遠ざければ、問題は起きない」

という仮説は、そもそも間違っていないだろうか。

人間は生まれながら闇の世界に惹かれるという、やっかいな本性を持っている。

大人たちにも自らの思春期を思い出せば、そんな心当たりが沢山あるはずだ。
喫煙や飲酒、早熟な好奇心をかきたてる文学作品や音楽、映画、夜遊び……。

子供たちがいじめや買春や事件に巻き込まれる背景には、悪いこととわかって
いながらも、自らそこに足を踏み入れてしまうという「最初の一歩」がある。

WEBの場合、その向こうにリアルな相手が存在することがあり、そしてあらか
じめ悪意を持っていたりする。
しかし子供にはそれがそうだと見分けられない。あるいは集団で動きだして
止められなくなることもあるだろう。「次の一歩」を踏み出した途端、予測を
超えた事態が生じる。事態の重大さに気付いたときには遅いのだ。

たしかにいつでもアクセス可能なモバイルに網をかけることで一時的な効果は
あるかもしれない。
しかし、子供たちが自分たちの持っている本性と、WEBの向こう側の相手との
掛け算が悲劇を生むことをきちんと理解してコントロールできるようにならな
い限り、根本的な解決は難しい。

元断たれなければ、形や場所を変えて噴出するだけの話なのだ。


◆フィルタリングに反対する理由

だからこそ、フィルタリングには反対なのだ。

少なくとも、この課題に対する解決のアプローチとしては間違っていると、
声を大きくして言っておきたい。

「携帯フィルタリングこそ、新しいビジネスのチャンス」だとか、「規制は、
モバイルがいっぱしのメディアとして認められた証拠」などと、言ってしまっ
たモバイル関係者は、今からでもいい。態度を変えてほしい。

現在のフィルタリング規制をそのまま認めたら、有害サイト削除義務付けの法
案を断る理由がなくなってしまうのだ。

「だって、ほら、モバイル関係者のみなさんも賛成してくれていますよ」
などという言質を取られたくはないだろう。

「モバイルWEB治安維持法」のような法案が通ったら、日本のモバイル業界は
当局やフィルタリング会社の顔色を伺いながらサイト制作するハメになる。
そんな業界に、明るい未来は来るはずがない。


それでもフィルタリング制度との共存を探るなら、せめてホワイトリストのUR
Lを親権者が自由に設定できるようにする等の「自由度」の検討が必要だろう。
自分の子供の自由を、どこかの誰かが決めたホワイトリストブラックリスト
に沿って決定するだなんて、逆に親権を放棄しているように見える。

携帯フィルタリング、総務省が“過剰規制”に「待った」
(ITmedia News)


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[健全なモバイルWEB環境をつくるために]
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モバイル企業は、フィルタリングに反対すると同時に、健全な環境を作るため
の努力や、お得意様である青少年層に対する「正しい使い方」の啓蒙にもっと
力を入れてゆく必要があるだろう。

「ピントのズレた」規制や悪法を作らないために、モバイル利用者の代弁者と
して、総務省文部科学省警察庁とも連携を取ってゆくべきだと思う。

この騒動をキッカケにディスカッションが深まり、この問題に関係する人た
ちが、お互いを正しく理解できるようになるといいなあ。


トリムタブジャパン有限会社
代表取締役 中谷健一