メディアのイノベーション

「マスメディアはどう変わってゆくのか?」
といった話題が最近、ブログやTwitterなどでさかんに論議されています。テレビも新聞も雑誌も、広告売上が落ちていて、広告代理店の倒産もものすごい勢いだというデータもあります。業界の方々にとっては「トレンドの話」など甘いものではなく「明日の飯の話」。切実です。


実は先日モバイル夜間大学で「モバイルと放送」と言う講義に参加してテレビ業界でのモバイル活用の取り組みを伺い、既存メディアのイノベーションについて思わず考えてしまいました。
テレビをはじめとしたマスメディアはネットやモバイルを活用したいろんな取り組みを始めているものの、いずれも基幹ビジネスをスクラップ&ビルドするような取り組みではなく、周辺新規事業的な取り組みに留まるのだな、と。


マスメディアが直面している問題のうち、最も大きいのは広告収益の大幅減少でしょう。

4マス媒体広告費とGDPとの比較1985-2008 (出典:Survey ML Reference Room)

※1985年=100としている


ものすごく話をシンプルにしてしまうと、ちょっと前まではマスメディアを通じて情報を「どさっ」と流せば、消費者はそれなりに「どさっ」と購入してくれるという公式が通用していました。マスメディアを使った広告は費用はかかるものの、それなりの「販売促進効果」があり、企業も喜んでお金を出したわけです。
いま現時点でも情報浸透にかかるひとりあたりのコストという指標を取れば、一定数以上ではマスメディアが優位であるのは間違いないでしょう。しかし「情報を知っただけでは購入まで至らない」という慎重な消費者がこのゲームを難しくしてしまいました。インターネットのせいかもしれないし、不況のせいかもしれない。あるいは消費者をめぐる環境変化によって消費者が臆病になっているのかもしれません。ただ、「どさっ」とマスメディアに情報を流しても「どさっ」と購入されることがなくなったという事実だけは企業の知るところとなりました。


では、ネットやモバイルはどうなのでしょう?
やっぱり「どさっ」と情報を流しても「どさっ」と購入されるとは限りません。ただ、ウェブメディアはアクセス解析などを利用することでコミュニケーションや動線を動的に変化させることができる(最適化できる)という特性を持っています。マスメディアのように一回きりの大勝負を張らなくても、「ちょろちょろ」とやって様子を見、また「ちょろちょろ」とやって確認して…と、コミュニケーションを変化させながら、効果を最大化できるポイントを見つけることができます。ある程度の成功パターンが見えてからどさっと投下すればいい。そのことさえわかっていれば大失敗にはなりにくいメディアなのです。投資対効果に慎重な企業は自然とネットやモバイルに広告予算を振り向けます。それが「マスメディア凋落」の真実ではないでしょうか。


しかしメディアと企業がきちんと考えてきちんと消費者に向き合えば、じつは新しい解決策が出てくるのではないかとも思うのです。消費者がマスメディアをまったく利用しなくなったわけではないんです。事実、テレビの視聴時間は減ってはいるもののまだまだ長い。「マスメディアから情報を受け止めるだけでは購入しない」という特徴が問題なのです。この問題の根っこには「メディアや広告を簡単には信用できない」というユーザーインサイトが眠っているように思われます。もちろん、それが全てとは言いませんが、この事実を無視して未来の広告を語るのは空しいでしょう。


この問題、単にネットやモバイルを使えば解決するというものではありません(正確に言うならば、モバイルにはユーザーのロイヤルティを高めやすいという特徴がありますが)。商品やサービスを提供する企業の姿勢、情報を伝えるメディアの姿勢がどうあるべきかが問われます。見知らぬ人と人とが個人的な信頼関係を結ぶソーシャルメディア全盛の時代、個人はメディアコミュニケーションを通じて企業の人品骨柄を判断する力を獲得していると考えた方がいいでしょう。それに応えるには、企業やメディアはまっすぐ自分の仕事をするしかないし、その地味な取り組みにこそブルーオーシャンを形成するバリューイノベーションがあると思うのです。


イギリスの調査会社Mobile Youthのグラハム・ブラウン氏のTwitterでのつぶやき。


「信頼と関心はお金では買えない」


そうそう、それなんです。